こんにちは。くま吉(@ijuu_navi)です。地域おこし協力隊がやばいという話をよく耳にする。よくよく聞いてみると、やばいのは隊員本人ではなく、自治体ということもあるよう。なにがどうやばいのか、ミスマッチの現実を見ていこう。
今回は、地域おこし協力隊の卒業後の進路の記事<【徹底解説】地域おこし協力隊、終了後はどうするの?起業して地域に残る。準備・両立について。>で紹介したパターン2:地域の企業への就職について、この2023年3月に退任して4月から地域の企業に転職された方のお話が聞けたので紹介していきます。
結構、巷で誤解されがちなのが、「地域おこし協力隊はみんな起業しなければならない」というような暗黙のプレッシャー。
確かに起業というのはひとつの成功事例かもしれない。退任時の特別交付税による起業補助金100万円という制度もある。地域おこし協力隊のいくつかある成功事例の中でも、話題性があるものほどメディアにも取り上げられやすいため、自治体側もわが町でもこのような「地域おこし協力隊からの起業」という成果を出そうとなるのもある意味では仕方がない。ただすべての協力隊員に起業を望む意志があったり、スキルがあったりするわけではない。冷静に考えなければならないのは、隊員の意志として「起業したい」のかどうか。そして自治体としても本当に「起業させたい」のかどうか。
安易に「起業してほしい」というような言動を隊員に向けるのは避けるべきということ。それがプレッシャーになることもある。それよりも、3年後もこの町で生きる道、働く道を一緒に見つけることに注力する方が定住に向けて大切である。この記事では、起業以外での定住を目指す人のための内容を書いています。
今回はパターン2の地域の企業への就職という道を選んだ2021年4月から2023年3月まで地域おこし協力隊だったAさんの例をあげてみるよ。地域おこし協力隊の活動の2年間を振り返ってもらったよ!
今回の内容
やりたいと思うことは何もできなかった。
2年間の地域おこし協力隊の活動について教えてください。
そうですね。一言で言えば、「やりたいと思うことは何もできなかったです。」まさに失敗事例だと思います。
いきなり衝撃的!!!
地域おこし協力隊の活動の内容やミッションはどのようなことだったのでしょうか。
立場としては、役場の観光振興専門員でありながら、職場は観光協会でした。仕事については、役場からの指示に基づきます。観光協会には席だけ置かしてもらっている感じでした。そこで活動内容としては「観光振興」を行うということだけ決まっていました。
着任前から「観光振興」をやることはわかっていました。観光なので外からいろんな人に来てもらうことを目指してがんばろう!と気合いっぱいで企画書をもって、着任してすぐに提案しました。
この町を含めて周辺エリア全体でサイクルツーリズムの熱がわいていることもあり、自身も自転車が好きということをつなげようと試みまして、「自転車をつかったサイクルツーリズムを企画、周辺自治体との連携も図りコースを策定し各地の名所を楽しむ。」という企画を出しました。
企画書への反応はどんな感じでしたか???
全然ダメでした。真っ向から否定されてしまい、正直心が折れました・・・
企画が通らない理由
- このマチの住民のためのものであるべき
- 周辺を回る意味ある?
- お金はこのマチに落ちるべき
- そもそもどこのなんの予算を使ってやるつもり?
- 1人でやるの?
- いきなりこんな大掛かりなことやるべきでない
などという理由だったそう。これでは心が折れてしまいますよね。
役場あるある!できない理由を並べる「ないない地獄」
くま吉の経験からすると、結構オーソドックスな役場あるあるにハマってしまったのかな。という印象です。本質的には実はあまり考えておらず、実現するまでの大変さを勝手にイメージしたうえで、できない理由を並べる。くま吉はそれを「ないない地獄」と呼んでいました。
ただ、これは仕方ない面もあるのです。役場のお金というのは、いろんな形で入ってきた税金を総合的に戦略を立てて使用していくものです。そしてそれを議会に承認してもらわなければならない。みんなのお金を適当な理由で使うなんてことは当然できません。誰かに承認してもらうに十分足りた企画書かという見られ方をするのです。なので真新しいことを始めるときは、想定問答を準備したうえで臨まなければ、全面的に負けてしまう可能性が高いのです。その点で言うと、どうでしたか??
そうゆうものなんですね。ちょっと私、全然わかってなかったです。普通に内容に自信があったので、内容が良ければいけるものだと思っていました。
内容自体にそれほど悪い部分は見当たらなくても、「新しい取り組み」というだけで大きなハードルが立ちはだかります。
既存のイベントや取組が決して素晴らしいものではなかったとしても、そこには目もくれません。なぜなら、過去に検討して一度承認されたものだからです。前例踏襲というのは、こうやって生まれていくのです。
くま朗も参戦するね。新しいことを始めようとしたときに必ず言われるのが、「時間がない」「お金がない」「人手がいない」です。逆にこの3つをしっかり押さえればいいだけかと言うとそうでもない。
計画外のこと=余計な業務と認識されます。ないないには続きがあります、ニーズがない、どれくらいお客さんを呼べるのかわからない、天気が悪いかもしれない、寒いかもしれない、事故が起きるかもしれない・・・できない理由を探すのがめちゃくちゃ得意なのです。
役場の人たちは前年度の予算に基づいてきめられた仕事に取り組むのが基本スタンス。想定外の企画を持ち込むには少しテクニックが必要なんだ!
相談できる環境がない
郷に入っては郷に従えという言葉のように、役場には役場のしきたりや仕事の進め方。気をつけなければいけない対象がある。民間会社で長く勤めていた場合には知らない世界がそこにはあるよね。
もうひとつ、問題があるとすれば意気消沈したときに次の一手をどうするかに悩んでしまう環境。相談できる環境がないということではないかな。
まさに私の場合はそうでした。自信満々に企画書を提出したため、まさか真っ向から否定されるなんて思ってもみなかったし、メンタル的な落差がありました。結局、次にどうしようかと考えても答えはでないし、相談する人もいない。普通の会社だったら同僚がいて、ちょっと飲みに入って相談乗ってもらうとか当たり前にできたけど、着任してすぐで友人もいないし。。。担当の職員に相談しようにも、いつも忙しそうだしまた否定されたらと思うと、アクションを起こせませんでした。そして、悩んでいるうちに時間だけが過ぎていきました。
次年度の予算案作成!?
意気消沈してからはどんな感じで過ごしていたの?
ん~本当に正直どうしていいかわからず、指示待ち人間になっていましたね。あとはSNSは、自由にやらせてもらえてたのでやっていました!が、休みの日に他のマチに出掛けた様子を投稿したら呼び出されて、消すように言われたのと自分のマチのことしか投稿しないように言われました。ここでも撃沈でした。
気づけば秋を過ぎ、次年度の予算の話が出始めるころですね。予算案の作成の話はありましたか?
これもなんだか唐突に話が合って、これまで予算書なんてつくったこともなく、何から始めていいかもよくわからないのに、急に打ち合わせの場に呼ばれて「来年どうしたい?」って。「え?なにがどうゆうこと?」「どうすればいいの?」という。だけども、次までにやりたいこととそれにかかる費用を調べて提出してと言われ。
いやー、それは困りましたね。なんていうか、一緒に考えようとするスタンスを見せてくれてもいいような気がするね。
自分の考える企画も本当は目指したいことというのは諦めました。何となくこのマチのためとか役場の人が納得しそうなやれそうなことを探してきてやろうという感じですね。だから予算書も結局、言われるがままに直して終了です。
これは自分がやる意味があるのだろうか。そんな疑問を抱きながら、あっという間に1年目が過ぎました。
そして、2年目。
2年目を迎えましたね。心境の変化はありましたか。
1年目は結局何もできずに終わってしまったので、何かひとつでもいいから達成感を得たいと思いました。
1年目の後半、予算書の作成のときにとりあえず探してきて提案したやれそうなことに取り組みました。でもそれは、本当は別にやりたいことではありませんでした。なんでこれやってるのだろう。そんな虚しさが残りました。
観光協会という場所に所属しているなかでは、どんな感じだったのでしょうか。
観光協会には席があるのですが。。ただ、観光協会の一般職員さんとは、一線を画された立場でした。地域おこし協力隊さんは役場の人だからと。役場には席はなく、観光協会には席があるけど仕事はない。すごく変な立場でした。こんなことなら、いっそのこと「観光協会の職員の仕事を担う」という条件を追加してもらえた方が、変な隔たりもなくなって居心地がいいはず。と思っていました。
たしかにそれはよくわからないですね。「観光振興」が使命で着任して、観光協会に席があるのに、観光振興を担う観光協会の仕事には関わらない。一人商店で頑張ってくれということなのかな?どうするのがいいか話しあったら解決しそうな気がするけど、そうでもないのかな?
これが問題だと認識している人は、他にいないんです。前任の協力隊の人もこの仕組みでやられていたから違和感もないのかと。
選択の軸は常に自分
迷い続けた2年間。結局自分は何をすればいいのだろうか。任期満了後、ここのマチに残るか。それとも。
思うようにいかなかったこともあったけど、自分の特性がよくわかった。自分は自発的に何かを生み出して仕事を作っていけるタイプではない。組織に属し、その中で明確な役割に対して力を発揮するタイプだと。
だから、地域おこし協力隊を2年で退任することとした。地域おこし協力隊をもう1年やるイメージがわかなかった。道を少し変えるなら早い方がいいと思った。地元に帰るという選択も考えたけど、やっぱりこの北海道で何かを残したい。
北海道に残って、何をしていくの??
転職を決めました!
地域おこし協力隊よりも広い視点で観光をPRする仕事。もともと旅行会社での勤務経験も長かったのでその経験を活かしたいと思っています。
自分にとって何がいいのか、地域おこし協力隊に早めに見切りをつけて、自分を活かせる場所を見つけていくのもとても大切なことだよね。
そうですね。3年目をイメージできなかったのが大きいです。このマチは好きです。でも好きだけでは生きていけない。仕事も楽しみながらやりたい。自治体の求めることと、私の考えていることがミスマッチだったのだと思います。
地域おこし協力隊と自治体のミスマッチをなくすには
地域おこし協力隊と自治体のミスマッチをなくすには、入り口であるフェーズ「募集・応募段階」で深く準備するのがいい。
フェーズ1:募集・応募
- 自治体:地域おこし協力隊について、なぜ必要か、何をやってほしいか、どんなスキル・人物が欲しいか、3年後どうあってほしいか。
- 隊員候補:地域おこし協力隊について、なぜやるのか、何をやりたいか、どんな環境を望むのか、3年後どうなっていたいか。
ここに記したこと、文にすれば「こんなあたりまえのこと」と思うかもしれません。しかし、これが意外と出来ていない自治体も、隊員候補も多いのが実態。むしろほとんど出来ていない。両者に問題があると言えるよ。
フェーズ2:選考の建前と本音
- 自治体:応募してくれたことがありがたい、特に問題なさそう、何かはやってくれるだろう。不合格にするほどではない。
- 隊員候補:応募したからには合格したい。合格すればやりたいことをやれるだろう。3年後のことはやりながら考えよう。
自治体の建前と本音は、結構あるある。本音としては、「人手が欲しい」。隊員候補も、とりあえず移住したい、どこかで働ければいいという前提の人の場合、「合格すればいい」。が本音。
これは負のマッチング。すなわちミスマッチだよ!!
このように、実際に移住して地域おこし協力隊として活動する前の時点に、実はミスマッチの根本的な原因があるのです。
自治体職員が通常業務の片手間程度で作る募集要項で成果が生まれるほど世の中甘くないでしょう。隊員候補もそのような募集要項を見極めずに安易に応募するのは避けた方がいいです。
3年間を有効に活用して、地域おこし協力隊制度の本質である地域活性化、地方創生に向けて気持ちよく人と人が関われるようになってほしい。そのためにもミスマッチが無くなっていくことが必須だね!!!